理化学研究所は、ゼブラフィッシュの同種間での闘争行動を調べ、空腹状態にあると勝負を諦めにくく、結果として敗北しにくくなるという神経メカニズムを発見した。今後、「ハングリー精神」の神経メカニズムの解明につながることが期待される。
理化学研究所は2020年6月24日、ゼブラフィッシュの同種間での闘争行動を調べ、空腹状態にあると勝負を諦めにくく、結果として敗北しにくくなるという神経メカニズムを発見したと発表した。同研究所脳神経科学研究センター チームリーダーの岡本仁氏らの国際共同研究グループによる成果だ。
動物は、食料などを取り合って同種間で闘争し、勝者が優先的に食料を得る。そのため、空腹状態では食料を得るために闘争へのモチベーションが上昇していると考えられるが、空腹が動物の社会的闘争行動に与える影響について詳細は不明だった。
研究グループは、闘争行動が明瞭で観察が容易なゼブラフィッシュを使って、空腹が闘争に与える影響を調べた。
まず、6日間絶食させた魚と餌を与えた魚をペアにして闘わせたところ、絶食させた魚の勝率が高くなった。闘争開始から、一方が降参して勝敗が決定するまでの時間は、絶食させた魚同士の闘争で最も長くなった。つまり、ゼブラフィッシュを絶食させると、容易には降参しなくなり、結果として負けにくくなることが分かった。
この神経メカニズムを調べるため、脳内の「手綱核−脚間核経路」に着目した。勝者と敗者では興奮伝播パターンが異なるが、絶食させた魚は、闘争前から勝者として振る舞うための手綱核−脚間核経路の興奮伝播が増強されていた。
さらに、この仕組みを分子レベルで調査した。神経ペプチドのオレキシンは、空腹によって発現量が増加し、食欲を増進させる。このオレキシンが、手綱核と脚間核の結合部分(シナプス)において、神経伝達物質の1つであるグルタミン酸受容体の遺伝子発現を制御していることを突き止めた。
空腹の魚では、脚間核のグルタミン酸受容体が長い間興奮するようになり、勝者として振る舞うための手綱核−脚間核経路の神経興奮が増強されることが分かった。
手綱核−脚間核神経経路は、全ての脊椎動物の脳に備わっており、ヒトを含む哺乳類でも、この神経経路が空腹時の社会的闘争行動の変化に関与していると考えられる。この研究は、進化的に保存された「ハングリー精神」の神経メカニズムの解明につながると期待される。
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