ティム・バートン監督のターニングポイントとなった一作
父がくれたもの。僕に教えてくれたこと。
空想は、敵ではない。愛のもう1つの姿だ。
ティム・バートン監督史上、最も優しく、心温まる作品といっても差し支えないだろう。それほどに、『ビッグ・フィッシュ』(03)は特別な輝きを放っている。日本公開から15年以上を経てもなお、多くの映画ファンに愛され続けているのがその証拠だ。
バートン監督の作品は、『バットマン』(89)や『シザーハンズ』(90)から『ダンボ』(19)に至るまで、「はみ出し者」に重きが置かれている。バートン監督自身、人付き合いが苦手で「孤独と生き続けている」とインタビュー等で語っているように、周囲と打ち解けられなかったり、自分の個性を理解されなかったり、彼の“分身”のような人物を愛でる傾向があるといえよう。
逆に、道の真ん中を嬉々として歩くようなキャラクターはほとんどと言っていいほど存在してこなかった。むしろそういった“陽キャ”は、『ビッグ・アイズ』(14)でクリストフ・ヴァルツが演じた夫のように、バートン作品では敵役として描かれることが多い。
しかし、こと『ビッグ・フィッシュ』においては、そうした「孤独感」は薄まり、陽光がさんさんと差し込むような「多幸感」が満ちている。現実世界にファンタジックな筆致を持ち込むバートン監督ならではの手法や、「異形への偏愛」といった作風はしっかりと受け継ぎつつも、「父と子の和解」といった主題をエモーショナルに描いており、観る者が素直に「泣ける」ヒューマンドラマに仕上がっているのだ。「バートン監督の新境地」という世間的な評価も、うなずける内容であろう。
ここで興味深いのは、本作は元々スティーヴン・スピルバーグ監督が監督する予定だったということ。『マイノリティ・リポート』(02)の後に製作するスケジュールで、スピルバーグ監督はジャック・ニコルソンを主演に想定していたという。しかし、脚本の改稿が行われるなかでスピルバーグは離脱。代わりに『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(02)を監督することになった。
確かに、考えてみれば『ビッグ・フィッシュ』のストーリー自体は極めてスピルバーグ的だ。ニコルソンの怪演を差し引いても、非常に真っ当でハートウォーミングな娯楽作になったことだろう。その後、監督探しを進めるプロデューサー陣は、『リトル・ダンサー』(00)や『めぐりあう時間たち』(02)のスティーブン・ダルドリー監督に白羽の矢を立てたという。彼が手掛ければ、地に足の着いた堅実な感動作になっていたことだろう。しかしこちらも着地せず、『PLANET OF THE APES/猿の惑星』(01)を終えた後のバートン監督にお呼びがかかった。
当時のバートン監督は、大作映画から距離を置きたいと考え、初期作『ビートルジュース』(88)のような“原点”に立ち返りたいと考えていたとか。また、同じタイミングで父を亡くし、子どもを授かるという経験をしたことが、『ビッグ・フィッシュ』のテーマに重なったとも語っている。
結果的に本作は、製作費が概算7,000万ドルに対し、興行収入は1億2,000万ドル超と成功をおさめ、英国アカデミー賞で作品賞・監督賞ほか7部門にノミネート。ゴールデングローブ賞でも4部門にノミネートされた。ちなみに、日本では初登場4位でデビュー。1位は『世界の中心で、愛をさけぶ』(04)、2位は『ホーンテッド・マンション』(03)、3位は『ドーン・オブ・ザ・デッド』(04)だった。
紆余曲折あったとはいえ、これらの成績や評価、その後のバートン監督のトーンの変化などを見ても、『ビッグ・フィッシュ』を手掛けることは必然だったに違いない。
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April 21, 2020 at 05:04AM
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『ビッグ・フィッシュ』空想の中に、愛をこめて――表現者の“心”が宿ったおとぎ話(CINEMORE) - Yahoo!ニュース
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