■コリコリ心臓が旨い「ネズミザメ」 正面から見るとネズミに似ているからその名があり、全長は3mに達する。サメの身は一般的にはあまりなじみがない。漁師さんにとっては漁具を壊したり、釣り針にかかった大事な魚を食べたりするので海のギャングというイメージが強いし、我々にとっても映画「ジョーズ」のイメージがあるから、多くの人はなかなか食べる気にはならない。とはいえ延縄漁の副産物としてさまざまなサメが水揚げされ、多くは宮城県の気仙沼市に集められる。なかでもネズミザメはほかのサメより身質がよく、地元では切り身で販売されてほかの多くの魚と同じく、焼き魚や煮魚にされて食卓にのぼる。 ネズミザメを語るとき、気仙沼の人が「もうかのホシ」と呼んで特別に珍重する部位を見逃せない。それはネズミザメの心臓、つまりハツのことだ。刺身にして食べる。鮮やかな朱色が皿に映え、これが、プリップリッのコリコリですこぶるうまい。鶏のハツの刺身に似た歯切れのよさがやけにおもしろく感じる。血なま臭さもさほどない。さっぱりしているけれど、酸味と、ほどよいうま味が溢れる。 「もうかのホシ」の「もうか」とはネズミザメのことであり、「ホシ」とは心臓が星の形をしているからそう呼ばれる。サメは人類が地球上に生まれる遥か前から棲息し、その生命力の強さは昔から伝えられている。そんなサメの心臓を、気仙沼の人たちは大事に食してきた。海のなかで最高位の捕食者として君臨するサメに畏敬の念を抱きながら、心臓のほかの魚にはない心地よい食感とクセのないおいしさを味わってきたのだ。 「もうかのホシ」の刺し身 ① ネズミザメの生の心臓を縦半分に切り分ける。② 流水でもむように洗って血抜きをする。③ 水気をふきとり、硬い血管部分を切り取ってから薄切りにする。④ 酢味噌で食べる。ワサビ醤油でもいい。 --------------- ――解説 「野村祐三」 日本全国の漁師町を精力的に取材して50年。漁師料理に関する経験と知識は右に出る者なし。『旬のうまい魚を知る本』『豪快にっぽん漁師料理』など地魚の著書多数。 --------------- 文:小泉しゃこ イラスト:田渕正敏
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July 31, 2020 at 01:00PM
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